2015/07/28

7月28日

昨日は静かな夜を過ごした。人が、首を吊っているところを初めて見た。タクさんの庭劇場。駅からしばらく歩く。途中まだか、まだかと思った。そしてパフォーマンスが始まってからも、まだか、まだかと思った。蒸し暑くて、首筋から背中をツーっと汗がつたってパンツに染みるのが分かった。あんなに何かを「待つ」ことはここ最近なかったな。なにかがやってくるのを、なにかが終わるのを、その間なにもせずに待つという行為は今の時代なかなか難しいことなんだろうと。でもいよいよその瞬間ってのは見逃してしまうくらいあっけなくやってくるんだよなぁ。ロープにかけられた手にぐっと力が入り、白髪まじりの頭がスルリと輪をくぐって上裸のタクさんがぷらんと吊り下がるまでの一連の動きは本当に一瞬のことだった。思わず「あっ」と声をあげてしまいそうになった。それからの庭はしばらくの間しん、としていた。風がなくて、ゴオオと雲が動く音だけが聞こえた。こないだ綱島の稽古場での美香さんのWave、20代くらいに見えたとこのブログにも書いた。そのときと全く同じ感覚で、家から庭へ出てくるタクさんもまた20代くらいの青年のように見えた。だって背中が白くてつるっとしていたから。冗談抜きで「わー、つるつるだぁ」とタクさんが登場したところで私は思った。Waveの美香さんは最初から最後まで瑞々しい20代のダンサーで、でも昨日のタクさんは、たぶん首を吊ってから、だんだんと老いていったように感じた。ゆっくり、1年が過ぎてまた1歳としをとるのと同じように、タクさんは刻みながら老いていった。最後触れられそうなくらい観客の近くに来たタクさんは、私の知らない人みたいだった。私の知らない場所へと向かおうとしている、とても歳をとったおじいさんみたいに見えた。そうして長い沈黙のあと、ふっと段差を上って消えた。最後のシーンが衝撃的で、首を吊っているところは意外にも驚きは少なかった。というより、それはごく自然な、タクさんの身体と日常に寄り添っている行為なのだなと感じたからだとおもう。